虚像の王国〜西武

昨夜(05/04/03)、NHKスペシャル(放送記録2005/4/3)「虚像の王国〜西武・土地神話の果てに」を途中から見ました。 政財界のことに疎い私ですが、堤義明さんが大富豪としてアメリカで紹介されていたらしいことは聞いたことがありました。

番組の中では、堤さんが拘置所から保釈されて自宅に戻ったところを映していました。行なったことは犯罪に違いありませんが、潔く謝罪した態度は、よく見聞きする政財界の大物とは違うものでした。また、取調中「自分には、はっきりものを言ってくれる人がいなかったので思い上がっていた」と語っていたそうです。

さらに番組では、あちこちの自治体がホテルその他の誘致に奔走したこと、バブルがはじけた後も銀行は西武だけには財務内容など気にせず融資をし続けたことも語られていました。また、宮崎県日南市の周辺では、水族館や巨大ホテル建設などを見込んで道路整備などに莫大なお金を掛けたにもかかわらず、実現しないまま借金だけが自治体に重くのしかかっているとのことでした。住民のまとめ役を買って出た高齢の男性の寂しそうな顔は印象に残りました。皆が西武王国に夢を託し、ここだけは絶対大丈夫、と思っていたわけですが、その夢は破れたのです。

ここに見られる人々の心理というのは、いつの時代にも、個人レベルから国家レベルに至るまで、どこにでも見られるもののように思えます。人は何かに、個人でも組織でも何かに頼りそれに自分の夢を託そうとする。また何かを偶像としてあがめ、それに忠義を尽くすことに生き甲斐をさえ感じる、そういう性質を人間は生まれながらに持っているような気がします。

かつてエジプトのファラオは神でしたし、天皇も現人神でした。さまざまな国家の君主と家臣の関係など、神ではなくとも人は誰かのために命を懸けて忠誠を守ろうとしてきました。例えばヒトラーなどの独裁者も、今となってはとんでもないことをした人として認められていますが、当時は熱狂的に人々から迎えられました。彼のような独裁者が出てこられたのは、本人の資質だけでなく、期待を掛けた民衆がいたからではないでしょうか。たぶん天皇が神とされたのも本をただせば民衆が求めたのでしょうし、西武グループの堤さんを思い上がらせたのも人々だったのかもしれません。

人はカリスマ的な指導者を欲するもののようです。自分に自信がないから確信をもって導きを与えてくれるものを欲するのでしょう。占い師に頼るのも同様の心理かもしれません。

また逆に、私たちは人から頼られると、それに応えようと頑張ってしまうものです。頼られている人も実はそんなに強いわけではないかもしれません。でも必要とされるから頑張っているうち、自分に自信を持っていつのまにか思い上がり、他の人を軽んじる所までいってしまう。ここには、それぞれの意思を離れて一人歩きを始める何かの流れ、勢いが生じるように思います。

自分よりも経験や知恵を豊富に持っている人は常に存在するでしょうから、他の人に頼りその知恵から学ぶことは決して悪いことではありません。また、他の人をリードする人も社会の秩序を保つためには必要なものです。ですが、これも適正なバランスをくずして、一方は謙虚さを失いおごるようになり、他方は権力におもね、こびへつらい、本当のことが言えなくなる、こうなって一定の限界を超えたときに、その人あるいはその組織は突然捨てられるのかもしれません。

個人や組織が破綻すると、人々は手のひらを返したようにそれまでの態度を一変させ、一斉に非難を始めるものですが、私はそこに何か釈然としないものを感じます。誰しも完全ではないですから断罪するのは簡単でしょう。人の欠点や罪を非難すれば自分が偉くなったようにも感じられますし、自分は義人なのだという自己満足も味わえるかもしれません。でも自分には何の責任もないと言えるのか…。

私自身、カルトに分類されることもある、ある宗教に長い間かかわってきましたが、数年前にそれが神の導いている組織でもなんでもなく、ただの人間の組織であるという事にようやく気づいたということがあります。組織の実態が意図的に隠されていたせいもありますが、こうであってほしいという自分の期待から、事実を知ろうとしていなかったことも否めません。

人生の長い期間を棒に振ったという悲しみやむなしさも感じ、どうしてこんなことが…と考えたりしましたが、こうしたことの背景には人が生まれながらに持っている性質が関係しているらしいということや、私自身が過剰な期待を抱いたせいもあるのではないかと思うと、どうも単純に宗教組織を糾弾する気にはなれません。

虚像に期待を寄せ、夢を託し、裏切られた人も不幸ですが、人々の期待を一身に背負い偶像となったものも不幸なのではないか、そんなことを西武王国に関するテレビ番組を見て思ったのでした。


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